六本木EXシアターでのコンサートが終わった。

初めてお聴きいただく歌も多く、初めて参加のミュージシャンもいて、それぞれどきどきわくわく。
それでも、今回はゲストに篠井英介さんがいらしてくださることが、心のよりどころになっていた。

英介さんといると、これまでの月日が目の前を流れる。
あの日あの時の苦労だったり、喜びだったりが、ざざざと流れる。

初めて下北沢の劇場「スズナリ」に、その舞台を観に行ったときのこと。
花組芝居という劇団での女形ということなので、勝手に和風美人を想像していたら、ダリアのように絢爛とした美しい人だった。
まるで原節子だ、と思った。


その時英介さんはまだ20代だったのではないだろうか。
それから、いろんなことをご一緒した。
いや、ご一緒していただいた。

野とも山ともわからない私のような者が、英介さんに助けられ、手を差し伸べられ、やっとの思いで舞台を重ねた。

その極みともいえるのが、宮本亜門演出の「浜辺のもてないおんなたち」。
ワイルとサティの作品だけで構成され、砂の中を飛んだり跳ねたりしながら、難曲たちを唄う。
一瞬たりとも気をぬける時間のない舞台。


「わたしたちって運動神経ないんだものねえ、ミヤモトがいうみたいに鮮やかにできないわよねえ」
と、二人で嘆きあった。
ぜいぜいと、口にも髪にもはいりこんだ砂を吐き出し掻きだしながら、嘆きあった。


そんな思い出も、昨日蘇った。
英介さんは「ビルバオソング」、私は「チャイコフスキー」を唄う。
あれから、30年以上の時が流れたのだなあ。

舞台袖で、そして舞台上で、英介さんを見ながら、ふっと泣きそうになる自分がいた。

「時は過ぎていく」
昨日初めて唄ったシャンソン。
「戦いのなか傷つきながら 時は時はいまも過ぎていく」
ここを唄うとき、ぐっとコブシに力を込めた。

やっぱり英介さんは戦友なのだ。


鎮まっているとはいえ、このご時世に、足をお運びいただいた大勢のお客さま。
なかなか外に出られないお客さま。
どなたにも、心からお礼を申し上げます。

私たちは、ずっと皆さまをお待ちしています。