背中の曲がった母親の前で腰を曲げるわけにはいかん。
それが子供の矜持だ。
と、腰をのばし、見えないところでふうと曲げる。

それでも、帰宅するともうあきません。
こういうおばあさんいたなあ、という歩き方になっている。

なんかおかしいなあ。
と笑ってしまう。
やっぱり、前期高齢者だ。


緊急事態宣言が解除された街は、解放感に満ちることはない。
マスクをしながら食事をする人も多いし、大騒ぎの人もとりあえずはいない。
コロナとの生活がこれだけ長いと、意識も変わる。

今年。「普通の日」が、一週間あったかなかったくらいの規制の中で生きてきた者は、いろんな術を考える。
若い人が集まってる場所には近づかない。
おおこわ、と避ける。

ウィズコロナ。
言葉にすると簡単だけど、ここまでの道のりは長かった。
まだまだ終わってもいないけど、とりあえず、ちょっとは明るい。


スーパーで。
「すみません」と、声をかけ、振り向いた女店員さんの顔は、今でもはっきり思い出す。
泣いていたのかと思うようにゆがんだ、そして恐怖の顔。
それが一年半前のことだ。

レジの人も、まるで戦地の人のようだった。
みんなが、切羽詰まって、張りつめていた。
ポンとちっちゃな針でさせば、ぱああんと破裂するような緊張感。

もうあの日々はごめんだ。


今度の総理大臣は、きちんと言葉を話せそうな人だ。
(その人がどんな人かどうかより、まず、ちゃんと受け答えができるかどうか、そんなことで安心する)

出港した船は、戻らない。
それなら船長さんには、がんばっていただきたい。
なんたってまだまだ広い河を渡っているのだ。
向うの岸辺はまだまだ。

岸田さんの岸辺。
おおっと。