昨年末、ひどい飛蚊症が現れ、あわてて眼医者さんに行った。
そうして、その日のうちにレーザー手術。
網膜裂孔というもので、網膜に大きな穴が開いているというのだった。


網膜というのは、その言葉どおり「膜」で、これがきちんと眼球の中にひっついていればいいが、いろんな事情でそれがはがれてくる。
加齢もその一つ。
はがれたら、網膜剥離。

その手前の段階が網膜裂孔。
穴が開いて、そのまわりが薄くなって、はがれやすくなる。


瞳孔を開く目薬で、世の中全部が見えにくくなったことと、レーザーって結構痛かった、それと、手術代が高かったなあという記憶はあった。
でも、ニンゲンって、ほんとに忘れやすい。
なにをどうしてどうやった、など、すっかり忘れていた。


で。昨日。
ドライアイの目薬をもらおうと気軽に診察を受けたら、右目にも小さい穴が開いているという。
げげげ。
またしてもレーザー治療だ。


施術台にアゴを乗せ、動かないようにアタマの後ろをテープのようなもので固定。
ここらあたりで、すっかり気持ちが萎えてくる。
いやあな気持ちだ。
人が人に固定される、って、あらゆる場面であるけど、これはやはりとてもイヤあなものだ。

そして、目を大きく開かれ、そこに「コンタクト」と称する器具をはめ込まれる。
イメージとしては、手元用の拡大鏡をはめられた感じ。
もうこれで、目は大きく見開かれたまま。

そしていよいよレーザー手術。
ずずんずんずん。
痛くもかゆくもないなあ、と思っていると、鈍い痛みの箇所が。
きっとそのあたりが、薄くなった膜なのだろう。
ひらひらぶよぶよはがれそうな箇所を、ずんずんとレーザー光線で留めていく。

「穴は小さかったんですが、そのまわりも剥がれそうですね」
女医さんが、てきぱきと処置をしていく。

いてえ、いてえ。

そのうち、ふと人体実験というものがアタマによぎった。
昔、戦争捕虜を医学のためという名目で殺していった。
その場面の捕虜の人たちに、自分が重なってしまった。
どんなにこわかったろう、どんなに絶望したろう。
拘束されたカラダで、何を思ったろう。


まさか、網膜裂孔のレーザー手術くらいで、こんなことを思うとは予想もしなかった。
でも、ある一瞬、確かに私は時空を飛んでいた。


時間にすると15分くらいか。
「はい、終わりました。30分もすれば普通になりますよ」
差し出された紙で、ぼろぼろになった目を拭いた。
もう、目はないんじゃないかと思った。

でも、目はちゃんとそこについていて、何ごともなかったかのようだった。

カードで精算。
両目で7万が消えた計算。
あーあ。

これは、いてえ。