父親が退院してから、時計の針の動きが変わった。
私は、なんだか早起きになって、6時過ぎには、もう目が覚めている。

今日あたりは、もう起きあがって、窓を開けた。
秋の空気だ。


ちょっと前。
近くの文房具屋さんから電話。
毎年のダイアリーが入荷されたが、どうしましょうか、というお尋ね。

父親が、もう何十年も書いてきているダイアリー。
それが、入退院で空欄が増えた。

字や文章を書くことで、アタマの整理をする。
これは私にも遺伝している習性のようで、一日一日の記録が足跡になる。
見返してなるほどとわかることもある。

でも、もう書けない。
書く気力はない。

そういう父親の姿に胸が痛む。

それでも、ちょっと元気になった午後遅く。
また父と母は並んで座る。
母の手が、父の背中を撫でたり、腿のあたりに置かれたり。

こんなに仲の良い夫婦になれたのだなあ。
この半年で。
そんなら、もっともっと早く仲良くなっていればよかったのに。

子供は歯がゆい思いで、二人を見て見ないふりをする。
まあ、いいんだな、これで。


「ダイアリー、取りにうかがいます。縁起物なんで」
と文房具屋さんに返事をした。
「そうですか」
ほっとしたような声が向う側で聞こえた。