小学生の頃。
転校先のクラスのともだちに。
「おこりんぼうのくみこう」と言われたことがあった。

驚いた。
あたしっていつも怒ってる?

鋳物の街ともいわれた工業地帯、埼玉の川口から、静岡でも田園地帯の藤枝へ。
そこでののどかさが、せっかちな子供には、まだ慣れなかったのだろう。

そうか、あたしってそんなに怒ってばっかりいるんだ。
自分の性格を知った、それが初めだった。


それから、自分のおこりんぼうのことを気をつけるようになった。
オトナになったらなおさら。ちゃんとしたオトナになろうとした。そしてなった。


と、思っていた。

ところが。
三つ子の魂百まで。という諺もあるように、持って生まれたマグマのような性質ってのが、時々噴き出す。
歳を重ねたせいか、これまで抑えてきたものが、ひょいと噴き出す。


昨日あたりも。
狭い路上ですれ違った男が、背後で「どけよ」とつぶやいたのを聞いた途端、襲いかかりそうになる衝動に駆られ、抑えた。
狭いから、ちょっと端によってスマホを取りだした。
それが相手のカンにさわったのだろうが。
アタマの中では「どけよってなんだよ!」と食ってかかり、蹴りを入れてる自分がいる。

おおこわ。
相手は普通のサラリーマン。
ジムにもいってそうな、丈夫そうなやつ。
そして、右手に傘を持っている。
これじゃあ、勝てないな。

いやいや、勝ち負けじゃないし、お前いったい何妄想してんだ。
と、自分を戒める。



こんなことが、たとえば。
マンションの入り口で、「こんにちわ」と言う挨拶を無視するデカい男にも。
くっそう、返事くらいしろよ。
と、聞こえないようにつぶやいてから、アタマの中でそいつをボコボコにする。

そうできたらどんなに気分がいいだろう。
と思う。


でも、きっと気分なんてちっとも良くないだろうこともわかってる。
じゅうぶん、わかってる。

人と争うこと、ケンカすること、そんなこと、街中で起こっている。
電車内暴力だって、家庭内暴力だって、暴力なんてそここに溢れてる。
暴力に終わりはない。
そんなこと、わかってる、ずっとずっとわかってる。

なのに、おばあさんになろうとしてるのに、マグマが時々熱くなる。
ああ、なんということだ。


アタマとカラダって、うまく折り合わないんものだなあ。
いや、これこそが「老い」の兆候かもしれない。
自制心を保てるか保てないか。そこが重要な分かれ目かもしれない。
キレる老人になりたくない。

気をつけなくちゃ。な。