音響ハウス。
レコーディングスタジオとしては、老舗も老舗。
創業が1974年というから、私が二十歳の年か。

銀座一丁目にある、このスタジオに来たのも、久しぶり。
ここで、昔ながらのやり方でレコーディングを行う。

エンジニアが、卓の前に座り、アシスタントが一名から二名。
そして、録音スタジオでは、たくさんのマイクが仕込まれ、次々にミュージシャンが入っては出ていく。


今回は、これまで唄ってきた歌の再アレンジ。
村松崇継さんにお願いをした。
予想通り、予想以上に、美しい仕上がりになった。

気づくと、現場で一番年長になっていた。

これまでの「現場」を振り返ってみたりして、ああ、ずいぶんと歩いてきたなあ。
でも、足跡なんて残ってるんだろうか。
と、不思議な気持ちになった。



ちなみに。この音響ハウスには、悲惨な思い出も多い。
一つは、ここでCMソングを録ったときのこと。
そんな仕事をしたことがなく、高いキーの歌が歌えず、どんどん下げて。結局お蔵入り。
CMに低い声は合わない。
これが初めてのスタジオ経験になった。


次は、ナニカシラの番組用に作った歌を別のスタジオで入れたが、どうも具合がよくない、下手に聞こえる。
いや、ほんとにヘタだったのだが、そんなはずがない、私は上手いはずだと思い込み。
この音響スタジオで再録音。
結局。ああ、私が下手なのね。と知った時の衝撃。


どれもこれも、若いとはいえ、30代の話。
穴があったら入りたいような、恥かき。


いや、いまでも恥をかくことばかりなのだ。
後ろにのこした足跡なんて、ないのだ。
人生と同じ、みんな幻なのかもしれない。

そう思うと、なんだかゆったりとした気持ちになった。


まあ、なるようになる。
今を、生きればいい。