夕方。
再開発をしている駅近くを通る。

ここらあたりは、ここ数年前まで、古い公団のような集合住宅が建っていて、おそらくこれも、前のオリンピックあたりに建てられたのだろう。
一棟一棟の間が広い、どの部屋にも陽射しの入るようなゆとりのある作り方。


それが、まったく変わる。
出来上がり予想図も貼ってあって、ほほんなるほどと思うが、駅も含めての、ここらあたりの再開発。
楽しみでもあるけど、それまで生きてるかしらと思うようになってきた。
だいたいが、このへんに住んでるかしらとも思う。


老親の数年後は、予測不能。
それにつれ、私も予測不能。


大規模な工事現場には、フェンスのあちこちに覗き窓みたいなところがあって、中の様子が見える。
そこを通ると、いつも子供みたいにぺったりとはりつく。
はりついてずっと見ている。

地下深くから、建物が立ち上がっていく様子は、胸が震える。
昔、なんちゅう作品だったか、楳図かずおさんの作品で見たように、でかいクレーンたちが意志をもったように動く。

上から下までずずずずと見る。
右から左までずずずずずと見る。
一人ワイド。

昨日は、ちょうど仕事終わりの時間で、どうやってその重機たちが「お仕舞い」にしていくのか見るのが楽しかった。

斜め45度あたりまで、延びた腕の部分を下げ、そこで固定。
馬のようだ。
一日を終え、ほっとしてる厩舎の馬のよう。


働いている人たちが、外へと通じるドアに向かう。
さっきまで、あんな大きな重機と一心同体だったのに、ちっちゃいニンゲン一人になって、バッグを背に、出口に歩く。


ずっと見ている、たった一人のこの観客のほうを見るので、手を振ろうかと思ったけど、やめた。
それはちょっと変な気がした。


まだその古い建物があった頃。
入り口の塀あたりで、泣いている子を見た。
中学生くらいの太った男の子だった。
片手を塀にあて、涙を流していた。
見ると、制服のズボンが濡れている。
いじめ。
おそらくそうだったろう。
濡れたズボンと涙に、ああ、なんて陰湿なんだろうと思った。

あの子、どうしたかな。
きっと、りっぱなオトナになって、働いてるな。
もう、中学生のお父さんになってるかもしれないな。
強くなって生きてるな、きっと。

あやや。こりゃこっちも年とるわけだわい。