去年のちょうど今頃。
父親が電気ポットを壊した。
いわゆるショートという状態で、散々な姿のポットに、母親は激怒していた。

「もう、パパはお湯沸かさなくていいよ。あたしがやるから」

何十年もの朝の習慣、起きて来たらお湯をヤカンで沸かす。
それを続けてきた父親が、失敗をするようになり、それで電気ポットにしたのだったが。
いよいよヤバいなあと思った。

もうあと一年経ったらどんなことになってるんだろう。


ところが。今。
父親は、ちゃんとヤカンでお湯を沸かしている。

ここ最近は、わが家の「奇蹟」ともいうべきことが起こったので、モノゴトは穏やかに順調に進んでいる。

昨日、母親にまた聞いてみた。

「父さん、吸水パンツも水に浸さなくなったし、こうやってヤカンでお湯も沸かせるし、一年前より良くなったね。
母さんが怒らないから、ずいぶん安心したんだと思うよ。
いつも玄関入ると、母さんに怒られてばっかりだっていってたからね、この前まで。
やっぱり不思議だなあ。ホントにどうして、こうなったの?」

「急に70年前の事思い出しちゃってね」

前にも書いたけど、ずっとずっと逆噴射家族のように激しい、言い換えれば、なにかと怒ってた母親が怒らなくなった、そのことが、私にはどうしてもまだ信じられない。


70年前の出会ったころを思い出し、そして、自分より先に死なないでねパパ、と寂しがる母親を、それこそ二か月前に予想などしていなかった。



母親は衰えたのだと思う。
怒るエネルギーがなくなったのだと思う。
結局、そういうことなのだと思う。


そして、やっぱり、それは神さまのおかげ、神さまからのプレゼントだと思うことにした。


そういえば。
母親の母親。
おばあちゃんも気性の激しい人だったけど、晩年、それは穏やかな顔になっていた。
ぽおとほほえんで69才で亡くなった。



もうすぐ母の日。
そんなに時間は残されていないと、自分に言い聞かせている。
自分に覚悟させている。


そうだ。可愛いケーキでも買っていくか。