本当なら明後日、ヤドランカさんの追悼配信ライブをするはずだった。

場所は、ボスニア・ヘルツェゴビナ大使館。
ここで、関係者だけで小さな小さな短時間のライブ。

私以外は、ギターの鬼怒さんも、薩摩琵琶の坂田さんも、琴の稲葉さんも、ヤドランカさんの故郷に、行っておられる。
その地に向けて配信をする予定だった。
ところが、この緊急事態宣言で、延期になった。


でも、鬼怒さんが、一応リハーサルをしておきましょうと言ってくれた。
「シュトテネーマ」あなたがいない。という意味の歌。
サラエボオリンピックの開会式でヤドランカさんが歌った歌だ。


ギター一つで、流れる哀愁のあるメロディ。
原語は難しいので、今回の企画を立てた作詞家でもある友利さんの日本語で唄う。

共産圏の旧ユーゴスラビアで、自由主義圏からも、みんなが参加した冬季オリンピック。
奇蹟ともいえる平和の祭典だった。


今、ヤドランカさんが唄ったスタジアムは、お墓になっていると昨日知った。
(文化放送で特別番組を流してくれて、そこでの日本の神父さんのお話だった)

あまりに多くの人がその後の内戦で亡くなり、どこにも埋めることのできない亡骸が、スタジアムの土に埋められているのだと。


シュトテネーマ、シュトテネーマ。
繰り返される、どうにもやりきれないような切なさ。
深いあきらめのような歌。
どうみてもオリンピックの華々しさとはかけ離れている歌。


今も昔も、世界には、どうにもできない哀しみ悲しみが溢れている。

ネットで流れた、今のインドの様子が、そこに重なった。
次から次へと運ばれる担架。
助けて、一目だけでも見てあげて。と救急隊に向けて叫ぶ家族。

その数分後には、みんな死んでいく。
そして組木の炎の中、たくさんの魂が空に昇っていく。



あなたがいない。
シュトテネーマ。

いつか、唄えればいい。
と思う。

ちなみに。
ヤドランカさんの追悼アルバムがコロムビアから出されたと聞いた。
なんだか、ほっとした。

故郷に戻ることができず、17年間住んだ日本からの「忘れないよ」というメッセージのような気がした。