古いドラマを見て、また泣いた。

録画していた「日曜劇場」。
倉本聰さんの脚本で、北海道を舞台としたドラマたちの中の一つ。
昭和51年の「幻の町」。

そこに、笠智衆と田中絹代が主人公。
雪の小樽に二人はやってくる。
二人はずっと心に、樺太を持っている。
若い二人が知り合い生きた町。

「くちづけもしたことないんですよ」と妻が、知り合った桃井かおり扮する若い女性に、明るく言う。

二人がしているのは、昔住んでいた樺太の町の地図を作ることだ。
思い出しながら、あそこに何があって、あそこに何があってと、書き込む。

「もう十年ですよ」と夫が言う。
これに人生をかけてきました。



でも、その地図は完成しない。
書かれていたのは、樺太の町ではなかった。
転々として生きてきた二人には、どの町も混同されてしまっていた。


あれ。私たちが探してきたもの、探してきた町って。
いえいえ、ありますよお、あそこにそのままありますよお。
そうだね、誰々さんも元気だろうなあ。あそこの店にも行かなくちゃなあ。


雪は降り積もり、二人はしっかり手を繋ぎ合っている。


「くちづけ、したいか」
夫の言葉に、妻はだまって顔を差し出す。

雪の中、そっと唇が触れ合う。


そして、また手を繋ぐ。


あれ、何か聞こえる。
そこに、樺太行きの列車がやってくる。

「ほら、やっぱり来ましたよ」

雪はただ降り積もる。


まるで「マッチ売りの少女」のようでもある。
幼い頃いつも読んでは泣いていた物語。

そして、今の私も、笠智衆と田中絹代という、無敵の二人に泣かされた。
悲しいとかそういうものじゃない、それは、神々しい。
神々しすぎるほど、神々しいもの。



この撮影の一年あと、田中絹代さんは亡くなった。
まだ67才。
ということは、このドラマでは私と同い年なのだった。


ああ、なんとも。


雪は降る。ただ降る。
そして人は去る。やってきてやがて去る。
そんなことが、胸にやたら迫る年齢になった。