もう一年ほど前か。
寝ていると、胸が苦しい。
脈に手をあててみると、明らかに飛んでいる。
まあ、自律神経の具合だろう。
と、それもいつしか消えていた。

その頃は区の健診を受けていたので、心電図を見て、どうも変ですねえ気を付けて、と医者が言った。
そんなあれこれもとうに彼方へいってしまった。


ところが、ここ数日、どうもおかしい。
昨日夕方、ネットを見て評判の良い医院を訪ねる。
評判通り、患者も多く、待たされうとうとして一時間ほど。

心電図をとりましょうと、親身な看護師さん。
優しい声と表情だけで、もうとろとろしてしまう。
ふだん、両親の世話ばかりで逆の立場がない。
なので、もう心もカラダもとろとろする。

「ああ」と看護師さんが言う。
「脈とんでますか」
「五秒に一回飛んでますね」


三人態勢という医師は、昨日は幸い循環器専門医で、これまた優しい。
もう、その場でごろごろ寝てしまいたい気分。
猫になってしまいたい。


「頭に血栓が飛んだらと思い来ました」というと、それはない波形だというので、とりあえずホッとする。
老親を見送るつもりが、自分が寝たきりになったらどうにもならない。

心室ナントカという症状らしく、24時間計測をする器械を胸に貼る。
それと何時に何をしたという書き込み表。
これで、私の心臓の状況が詳しくわかるらしい。

なので、今胸にはその小さな器械。
父親の頃とは大きさもだいぶ違う。
医療はどの分野も日進月歩なのだ。


動悸がつねにするので、静かにしているより動いているほうが気がまぎれる。
今日もなすべきことは、たくさんある。

自粛などという言葉は、老人を抱える家庭にはない。


でも、それもこれも巡り合わせなのだろうと思う。


命に別状はないだろうが、それでも寝ていると、ああ、あれもこれもと後の始末の大きさに、余計目が冴える。
生きるって、モノが増えることなんだなあ。

親二人、そして私。
ニンゲン三人分の始末は、ただごとではない。

全部終わるまで、どうか神さま、なんとか元気にいさせてください。と闇に祈った。