「BS日本のうた」でお聴きいただいたかたもいらっしゃるかも。

この季節、秋になると唄いたくなるのが「誰もいない海」。

本当は秋だけじゃなく、いつでも、年がら年中唄いたいほど好きな歌だ。

この歌。
トワ・エ・モワの歌として有名だけど、私には越路吹雪さん。

作曲が越路さんのご主人内藤法美(つねみ)さんということもあって、越路さんのドラマティックテイストにとても合っている気がする。
ただ、トワ・エ・モワのさっぱりとしたフォークテイストは、万人に受け入れやすかったのだろうとも思う。


それはそれとして、この歌の歌詞は本当に沁みる。
若いころも沁みたけど、歳を重ね、ますます沁みる。

喧騒の去った秋の誰もいない海。
そこで、主人公は、海と砂と空に約束する。
たった一つの夢がなくなっても、愛しいあの人が去ってしまっても。
私は死にはしない。
どんなに寂しくても、辛くても、一人でも。
死にはしない。
そう、海と砂と空に誓う。


人生の夏を終えようとする秋の主人公。
これからきっと長い冬が待っている。
もしかしたら人生のほとんどは冬かもしれない。

いろいろなものと別れ、手放していく。
それでも、人は生きていく。歩いていく。


歌い手をしていて、こういう歌を唄えるのは、本当に幸せなことだと思う。

在りし日の越路さんがこの歌を唄う姿に、彼女の見ている海と砂と空を想像して涙していた若い私が、今、同じ歌を唄っている。


海と空の間。そして握ってもこぼれていく砂。
なにがどうしても、きちんとふんばって立っていきたいなあと、唄うたび思う。
いや、思うんじゃなく、願う。
いや、願うんじゃなく、誓う。

一生懸命、何があっても。
ちゃんと生きていくよ。