新宿にある、というか、あった歌声喫茶「ともしび」が閉店した。

そうだ、今日だった、とわかったのは昨日の夕方。
9月30日。

ちょうど私の生まれた頃に始まった歌声喫茶。
「カチューシャ」や「ともしび」という店名を見てもわかるとおり、共産主義が、まだ人々の憧れのような時代に生まれた。(どちらもロシア民謡)

え、まだ歌声喫茶ってあったんですか、と驚かれる方も多いが、ここ数年、中高年の方々がそこで集い、いっしょに唄う大人の楽しみ、社交場のような盛況ぶりだった。


私も、何度かおじゃました。
「広い河の岸辺」を、お客さまと一緒に唄っていただくという、一つのキャンペーンではあったけど、それ以上に、心躍る場所だった。


ここから、いろいろなうたごえ祭典のような場所にも参加させていただいた。

え、これってそういう歌なの、という歌も多く。
たとえば「線路は続くよどこまでも」。

この歌、私たちの世代だと、ルンルン楽しい鉄道の旅の歌だけど、もともとは労働歌。

アメリカの大陸横断鉄道で働く男たちの歌だった。
アイルランドから来た男たちが過酷な労働の中でみんなで唄うその歌は「線路の仕事」という名前で、歌詞もまったく違う。

流れる歌の途中、え、これ、せーんろはつづくーよーどーこまでもー、の歌だと気づいたときは、驚いた。
そうだったのか、これって汗にまみれた男たちの歌だったのか。


こんなふうに歌の成り立ちも知ることのできる、その入り口を開いてくれた「ともしび」。


今、みんなで唄うことがタブーになっている。
合唱もしかり。
口惜しいし、悲しい。

でも、こんな歌の冬の時代は、きっといつか終わる。
ぜったい終わる。

「ともしび」も、決してあきらめたわけではなさそうだ。
ちろちろと、歌心の灯は、燃え続ける。
そして、またその灯を、あかあかと灯す日を待つ。
絶やさぬよう、大切に大切に、歌心の灯を守る。

そういうことだ。

がんばれ、ともしび。
がんばれ、私たち。