なかば最悪を考えていた。
ネット所見を見ても、年齢を考えても、おそらく膀胱がんに違いない。

エコーに映った大きな腫瘍は、そう思わせるに十分だったし、もうこりゃあ手術だなあ、また錯乱するなあ、どうしようかなあ。とアタマがぐるぐる回った。


ところが。
ガンではなかった。
おそらくこれまでの血尿からくるオリのような塊。
器具で削ると、ぽろぽろ崩れていくらしい。
なんだこれ。
写真を見てびっくり。
当人の父親も、ビックリ。


とにもかくにも、これで手術と入院は免れた。
ほおおおおおお。力がぬけるわい。

父さん痛かった?
と聞くも。
うううん、痛いっていうよりヘンな感じだなあ。

でも、そんなぬるいこと言ってられたのも、チョットの間だった。
家へ戻ると、もうゴロンとして。
「痛いなあ」

麻酔がもう切れたのだ。

父さん、ご飯食べる?食べられる?
と聞くと。
「腹は減ったなあ」

そしていつも通り完食。


どうやら100歳まで生きる気でいるな。
これまで、いやいや、そんなと思ってたけど、いやいやそんなが、遠いことではない気がしてきた。


そう言えば。
初診の日、医師が。
「90歳過ぎてるからもっとよぼよぼかもと思ってましたが、お若いですねえ」と言った。
なんだよ、その「よぼよぼ」って。と思ったけど。
「はい、若作りで」と答えた。

そして、若く見えるけど、アタマがちょっとむずかしいです。耳も遠いです、
と、言い添えた。


そうはいえ、やはり医者は、父親に一生懸命説明してくれた。
はいはい、そうですか。
と父はうなずき。

そして帰ったらみんな忘れてた。


「ご破算でねがいましては」というソロバンの決まり文句が浮かんだ。

その前のあれこれを全部ご破算にして、初めから新しくやり直す。
じゃらじゃじゃんとソロバンを振って、やり直す。


父さん、ご破算ばっかりだわ。
いっつも新しい、いっつもはじめて。
こりゃあ、本人が一番ストレスフリーだなあと納得した。
ほんとに100歳までいくかもしれん。


と、すでにぜえぜえしてる娘は思った。