もうタイヘンだったのよお。夜中に雑巾かけて、もう背中が痛くなって。

と、母親が言う。

父親が、いわゆるリハビリパンツを、水に浸してしまって、その始末に大騒ぎになったということだった。


これまで普通の下着(サルマタってやつ)を難なく着けていられた父だが、この夏、どうもうまくない。

暑さでカラダの機能もうまくないのもあるだろうし、だいたいがそんな年齢でもある。


汚れた下着を洗面器に浸けておく、ということが、アタマに残ってしまっているせいか、それがリハビリパンツになっても出てくる。



これはとても困る。

吸水ポリマーとかなんとかいうものが、ぐんぐんぐんぐん膨らんで、あっという間にカエルの卵みたいになる。
そして当然とても重たい。

へえええ、よくできたもんだなあと感心してる場合じゃなく、その処分には苦労する。



脱いだものは洗濯籠に入れる。
何十年もしたきたことを、この新顔のパンツでもしてね、と何回も念押しするが、ちょっと時間をおくと、忘れてしまっている。


これまでの茶色サルマタが白紙パンツに変わった。
それは、そう簡単に対処できることでもないのだろう。


タイヘンだろうけど、母さん、父さんのお風呂前後だけ、パンツの確認してね。
と頼む。

パンツの前後にも気をつけるように頼む。
後ろには「うしろ」って書いてあるからね。


このところ、父の変化が早い気がする。
暑さのせいなのか。

でも、秋になって、冬になって。


そんなこと考え出すと、怖くなるので、日々を生きる。

でも、これからのことも、準備しなけりゃと思う。
色んな人に聞きながら、備えなきゃと思う。



近くの小さな呑み屋さんに貼り紙があった。
「この8月31日をもって残念ながら閉店します」
長い間、いつもそこにあった店だけど、店仕舞い。
もう道端でばったり会うこともないだろう店主Kちゃんの顔が浮かぶ。

Kちゃんも歳とったから仕方ないないんだろうなあ。
店仕舞い、人仕舞い。


なんだか、さみしい夏の終わりだ。