とうとうあと一回だねえ。

と、盛り盛りアタマを崩してもらいながら、床山さんと話をする。


「普通なら、やったあ、これで一つ終わりって気持ちになるんでしょうが」

そうなのだ。
今はいつ「次」があるかわからんのだ。

いつ「次」があるかわからない。
もし、次があったとしても、それがいつ止められるかわからない。

誰かが「体調不良」になれば、それで全部ストップ。
でも。
今日は調子よくないなあ、なんて誰にもある。
お腹が痛い日もあれば、ふらふらする日も。

いったい、今日のこの調子の悪さは、「体調不良」としたものなのか。
と迷う人だってたくさんいるに違いない。


私たちってちょっとくらい調子悪くても、そんなんで休めない。舞台に立つことでだんだん上げていったんですものね。
と知寿さんとしみじみ話すそのままのことだった。


今は、その体調不良を案じて、余計体調不良になりそうだ。



昨日帰りの車から、外を見たら「立ち吞み屋」さんがいっぱいだった。
だいじょうぶかいな、とよおく見ると。
みんな一人一人で、無言で飲んでいる。
仕切りのアクリル板がうっすら光る。

入り口は開けっ放し。

立ち吞みの木が、たくさん立っている感じだ。

あ。サミシイ。
サミシイ。



手を握って、ハグして、別れを惜しむことは、もうできない。
マスクで顔を隠し、メガネをかけて、ありがとうと言うしかない。


誰が誰かわからないことだって多い。
「ありがとう」は宙に浮いて、それこそエアロゾルのようだ。

世界中のエアロゾルがみんな「ありがとう」になっちまえ。


さ。
千秋楽。
見えるお客さまと、見えないお客さまを前にできる喜び。

行ってきます。