夕方、ピンポンとチャイムが鳴った。
マンション入り口に、作業服姿の男性が立っている映像。

「先日おうかがいしたのですが、その時にお留守だったお宅にまたお伺いしています。風呂場についてのことですが、玄関先までお願いします」

「玄関先?」

どうやらその人は、まず解錠をしてほしいということらしいが、その言い方から、そういう一連のことに慣れていない様子。へんだな。
でも、ま、いっか。
と解錠して、こちらまで来るのを待つ。


作業服はいかにも作業服で、例えば、電気会社とかガス会社とかと変わらない。
社員証みたいなもんもぶら下げている。

「こちらのマンションは建ってから23年ですよね、お風呂場って、寿命があるんです(へええ)取り換えをしないと水漏れとかでトラブルになるんです(へえええ)。
こちらは壁がタイルですよね(そうだよ)それが割れたり、継ぎ目が劣化してそこから水が漏れたりとトラブルになります」

と、写真を見せる。
劣化したタイル張りの風呂場だ。


「あ、でも、うちこんなに汚くないですよ。いつも使用後に水気拭いててなんにも問題ないですよ」

「でも、できましたら見せていただけたら」

玄関先での話なら、なんとでもなるけど、中に入れるのはヤダな。

「確か不在の時に、うちのパンフレット入れておいたと思うんですが」

「まったく入ってませんでしたよ」

「あれ、おかしいなあ。うちの子入れてないのかなあ」
ちょっと目が泳いでる。
へんだな、こいつ。

「なら、今置いてってください。あるいは後からでもポストに入れてくださいな」

そう言うと。

急に電池切れしたみたいに、帰って行った。
その後ろ姿に「詐欺」と言う言葉が浮かんだ。

あ、これ「詐欺」だな。


こうやって、あわよくば風呂場に入って、あ、これはひどいとかいって、大金をふっかける。


この人は「詐欺犯」としては、まだまだ初心者だから失敗したけど、上級者だったら、きっとだまされる。


私も若い頃、高価な消火器を買わされたし、父親は床下の換気扇てやつに大枚をはたいた。

こうして「詐欺」には遭遇している。

オレオレ詐欺の時代になって。
ちょっとでもヘンな電話はすぐ切るようにと老親には言ってあるが、こうして、直接、親切そうなボクトツな人がきたら、あぶないかもしれない。


これは新手な詐欺かもしれない。


ということで。

皆さまも十分お気を付け下さい。
ぜったい、玄関を開けない。
これが一番、と、開けた私が申し上げます。