朝。あんまりがっくりくる動画を見てしまったので。

そういうものに心をかき乱されるのはゴメンだと。

 

録画してあった映画「ベニスに死す」を見る。

 

ビスコンティ監督の、70年代の名作だ。

これまで確か二回くらいは見ていた。

 

でも、今、また。

 

ベニスに療養にやってきた老作曲家が、そこで出逢った美少年に魅了され、当時流行ったコレラで命を落とすまでの映画。

 

 

この美少年に扮するビョルン・アンドレセンは、その頃、一大ブームになった。

確か日本のお菓子のコマーシャルにも出た。

 

ビスコンティの映画が、それほど社会的だったということに驚く。

思えば、あの頃は、フェリーニやパゾリーニといったイタリア監督の映画が、どこでもかかっていて、私もよく名画座に通ってたなあ。

 

 

で。この「ベニスに死す」。

コレラが徐々に忍び寄ってくる空気が、今と重なる。

「何か起きているのか、今ここに」と問う主人公に、ホテルの支配人が言う。

「何もありませんよ」

 

観光シーズンを逃したくないベニスでは、コレラのことを隠したいのだ。

でも、街には異臭が漂い始める。

消毒剤が撒かれる。

 

 

好きな俳優、ダーク・ボガード扮する主人公は、最後、白いスーツを汗で汚し、海辺のチェアで死んでいく。

マーラーの交響曲が、遠く包み込むように流れる。

 

ああ、リアル。

まさか、この映画を、こんなふうにリアルに感じることになろうとは。

 

ぽおおおとフヌケになってしまって、ツイッターをのぞくと。

やはり、心かき乱されたというより、脱力した動画の話題ばかり。

 

それは、星野源さんの歌にコラボした総理のもの。

 

 

夜。

やっと気持ちの落としどころがわかった。

 

そうなんだ。

恐怖なんだ。

 

この前のマスクといい、今回の動画といい、この国のリーダーたちと、その周りのスタッフは、もしかして何にもわかっていないのじゃないのだろうかという恐怖。

 

失策とか勘違いとかいうものじゃなく、何も見ていない、生活者のことを何も見ていないんじゃないかという恐怖。

 

 

怒るとか批判とか、そういうことを通りこして、今はただ怖い。

 

日銭で生きている人たちがいる、今日がなければ明日がない人たちがいる、そのことを「わからない」人たちが、政治をしている。

そのことが怖い。

 

 

恐怖はコロナだけじゃなかった。