新コロナウィルスでうろうろしている間に、劇作家の別役実さんが亡くなっていた。
私の若い頃は、「不条理劇」という演劇が盛んで、別役さんもその一人だった。
不条理っていったいなんだ、そんなことまったくわからんまま、事の成り行きで「木霊」という演劇サークルに入った。
木霊と書いて「こだま」と読む。
音は可愛い。
が、やってるものが暗い。
アトリエの場所も、大隈講堂の裏。
まったく、暗い。
そこで別役実という名前を知り、役をもらった。
「葬儀屋の令夫人A」とかいうもの。
お芝居したくて大学に入ったけど、まさかこんな記号みたいな役名ばかりの芝居をすることになるとは思ってもいなかった。
それでも、親は公演を見に来てくれた。
暗いじめじめしたアトリエに二人で。喜んで。
なにこれ。
と二人とも、さっぱりわからなかったらしいが。
「カンガルー」というタイトルをもじって「きっとよくカンガルーってことだよね」と笑ってくれた。
その芝居に歌手の役で出ていたのが、アッちゃん。
ゴダイゴのタケカワさんの奥さんだ。
タケ、タケと彼を呼ぶその響きは愛がいっぱいで、うらやましかった。
全員で唄うシーンもあって、その時、唄うことってこんなにうれしくて幸せなことだと初めて知った。
ああ、これはもう歌だな。
芝居なんかやってられない。
と、子供の頃からの「女優になる」夢はさっさと放り出された。
二十歳を前に放り出された。
だから。
どんなことがあっても、唄いたい。
どんな時代でも、どんな時でも、どんな形でも唄いたい。
唄わなくてもいいや、と思っても唄いたい。
唄うなんてイヤだと思っても、唄いたい。
唄ってなんかいられないという時こそ、唄いたい。
そうだそうだそうだよね。
と自分を励ますんだ。
はいっ、がんばれと背中を自分で押すんだ。