「クミコさん、ぼくシャンソンの「黒い鷲」を唄っています」
と、氷川さんが言われたのが、2018年の暮れのこと。
「徹子の部屋コンサート」の大阪公演でのことだった。
「黒い鷲」はバルバラという女性が作って唄ったシャンソンの名曲だ。
でも、とても哲学的でムズカシイ歌でもある。
ある日、突然黒い鷲が空に現れる。
その鷲は、自分のところに舞い降りてくる。
そして、また空に消えてしまう。
夢なのか現実なのかわからない、この鷲。
この歌を氷川さんが唄っておられるという。
驚いた。
そして昨夜。
帰ってきてあわててテレビをつけた。氷川さんの「ボヘミアンラプソディー」に間に合った。
湯川さんの日本語詞で唄われるということだったので、なんとか聞きたかったのだ。
立ったまま聞いていた私は、いつの間にか正座していた。
そして、最後の「風が吹く」というフレーズで、涙していた。
歌い手は、その人生を全部歌に乗せたときに、破壊的な説得力を持つ。
歌とその人の人生が重なると、それは、歌を越える。
氷川さんは、ムズカシイ歌でもあるこの曲を、ご自身の身から出る唯一無二なものとして歌われた。
もともとは英語だとかクイーンだとか、そんなことを越えている。
「ボヘミアンラプソディー」は完全に氷川さんのカラダとココロを通り、氷川さんの血と肉の歌になっていた。
そうか、だから「黒い鷲」が唄えたのだなあ、と思った。
黒い鷲がいったいなんなのか、きっと氷川さんにはわかっていたのかもしれない。
私などが、アタマで考え想定する黒い鷲ではない、その鷲が、氷川さんには見えているのかもしれない。
すごいなあ。
と、胸がどきどきした。
これから氷川さんはどんな歌い手になっていくのだろう。
またどきどきしてきた。