1988年が初演の舞台を観に行った。

 

「シャボン玉とんだ宇宙(ソラ)までとんだ」

音楽座というミュージカル劇団の代表作。

 

井上芳雄さんが主役をされているので、うかがったのだけど、そこに土居裕子さんが出ておられることも楽しみだった。

 

裕子さんは、この舞台の主役カヨさんをずっと長い間務めてこられた。

一緒にうかがったスタッフも、いまはない青山劇場での裕子さんの舞台を観ていた。

 

30年あまりの時が過ぎ、そのカヨさん役を、今は別の方がされている。

でも、観客は、カーテンコールで裕子さんに大きな拍手を送った。

特別な拍手のように思えた。

 

私が裕子さんに初めてお会いしたのはどこだったか、なんだかぼんやりしている。

(もうすでに物忘れが始まっているのだな)

でも、裕子さんのすとーんと抜ける美しい声を聞きに、そしてその愛らしい姿を見に、何回か劇場に通った。

 

裕子さんも、私の歌を聴きに小さなシャンソンの店にまで来てくださった。

 

でも、ここ数年ご無沙汰してしまっていた。

人間関係というのは、ちょっとしたご無沙汰が長引くことが多い。

特に年齢を重ねるとますますそんな感じだ。

 

それでも、終演後、芳雄さんにご挨拶をして、それから裕子さんの楽屋も訪ねた。

 

裕子さんは、変わっていなかった。

透明さを保ったまま、でも、そこに冷徹ともいえるような静けさをたたえた眼をされていた。

 

それは時代を見てきた眼といってよかった。

この舞台の1980年代、そして90年代、それから今。

あの頃、みんなが希望としていた光が、今どんなふうに変わったのか変わらなかったのか。

そして、その希望の光をツナゲる大切な役割をご自身がはたされていること。

舞台と裕子さんの人生との、リンク。

 

 

そんなあれこれを勝手に思い、胸が熱くなった。

 

でも、「がんばってくださいね」と言ってしまった。

「がんばって」なんて、なんて言い様だと思うのだけど、思わずその言葉が出てしまった。

 

 

裕子さんも私も、やっぱり「がんばって」歌を唄い、生きていくのだ。

時の流れを冷徹に眺めながら、舞台で生きていくのだ。

しんどくてもなんでも、それがこの道を志した者の任務でも仕事でもあるのだ。

 

ハグした裕子さんの肩は、変わらず少女のようだった。

 

ああ、私もがんばる。

やっぱりがんばる。