この一週間。

母親を苦しませ続けてきたセキ。

 

これで大丈夫でしょうか、とクリニックに電話すると、血液検査をすることになった。

なにより肺炎がこわい。

 

私が仕事に出ねばならぬ時間までに急いで来てくれた、美しく優しい看護婦長さん。

母親の胸に聴診器をあてる。

 

「あたし、まだ読みたい本もあるの、だからまだ死にたくないの」

と母親。

 

「いんぺーそうさ、途中まででねえ、続き読みたいの」

 

なんだ「いんぺーそうさ」って。

そうだ、ミステリー好きの母親に頼まれて買ってきた、今野敏っていう作家の本だな。「隠蔽捜査」。

 

しかし、なんだってこんなこと婦長さんにいってるんだ。

わからんだろが。

 

 

でもこの饒舌が、救いになる。

喋れるだけ元気ってことだ。

 

 

案の定、先ほどかかってきた電話では、肺炎などの炎症反応は低いという。

 

 

「母さん、まだ死にそうもないよ」

と電話する。

 

「そおお。良かった」と声が明るくなる。

 

 

でも、こうして一段一段ゆるい階段を降りていくのだろうな。

そんなことを考えてたら、また眠れなくなる。

マイスリーは毎晩のお友達。

 

 

本人はいつもぐっすり眠っているというのに。

「あたし、眠れないなんてことないわよお」

 

子の心親知らず。

 

 

って思います。