猫にも栄枯盛衰はあるのだ。
世代交代はあるのだ。
そして、それが野良猫の場合、なんとも胸が痛くなる。
私の部屋の下に見える、隣家の物置。
その屋根が、猫(もちろんオス猫)たちのあれこれが見える場所。
ここにもずっと書いてきた白黒のボス。
このボスが、ここ数年、この日当たりの良い屋根を占領していた。
他の猫が来ても、その威圧感だけで追い払う。
カラダもデカい。
ちょっと姿が見えないと心配した。
人の目に触れない場所に死ににいってしまったんじゃなかろうか。
とはいえ、この都会のこと、そんな場所だってどんどん減っている。
それでも、ボスは帰ってきた。
そして、ガラス戸を開けて「ボス!」と小さい声で呼ぶ私をじっと見た。
いつもそうしてじっと見た。
警戒と値踏みのように私を見た。
まさに野良猫らしい態度だった。
ところが、昨日。
しばらくぶりに姿を現したボスは、カラダの大きさこそ前のままだが、耳が赤くちぎれていた。
かじられた跡だ。
目を凝らせば、そのほかにも、いろんなとこが傷ついてる。
「ボス!」また小さく呼んでみた。
いつもはちょっとした警戒感を出すボスが、私を見てもスルーする。
こんなの初めてだ。
警戒する元気もないのか。ボス。
これじゃあ飼い猫みたいだ。
そうして、ボスはほんとにちょっとの間、その屋根で時を過ごした。
前みたいに、ごろんごろんすることもなく、前足をたたんで、じっとしている。
タイヘンだったんだねえ。ボス。
野良猫のオスの生活が、どんなに苛酷かは知っている。
家猫と違って、いつも闘わねばならない。
闘って、そのテリトリーを守らねばならない。
若いオス猫と闘い、やがて、敗れ去ること。
そうして、またその若いオス猫も老いたオス猫になること。
佐野洋子さんの「百万回生きた猫」の、でかいオス猫を思い出す。
わあああんわああああんと泣く最後のシーンを思い出す。
ボスううう。
わああああん、わあああああん。
スマホでボスの写真を撮った。
これがサヨナラになったらヤダけど、撮った。
またね、ボス。
またね。