父親がおかしなことを言う。
と母親が怒っている。
マサオはどうしたとか、ニムやんはどうしたとか。
マサオさんは弟、ニムやんはお兄さん。
どちらもあっちに行っている。
行ってからずいぶん経つ。
どうもおかしんだよなあ。この頃ねえ。
と、昼食後、父親が言いはじめた。
あ、これだな。ピンときた。
みんなあっちいっちゃったよ。
そろそろお盆だから、みんなが寄ってくるんだと思うよ。
そろそろ父さんも来たら、っていってんのかもね。
そうかなあ。
うん、だからさ、気にしないほうがいいよ。
それに父さんももう91だから、いつ行ってもおかしくないしね。
と、励ましてんだか慰めてんだか。
でも。
ホントに不思議はないのだ。
あっちからそろそろ来いや、なんてお誘いがあっても不思議はないのだ。
そういう覚悟はとっくにしている。
でもさあ、これって「牡丹灯籠」みたいだよねえ。
と言うと、母親が笑う。
やっぱりお盆なのだ。
ちゃんとやったかなあ、大丈夫かなあ。
父親は、亡くなった兄弟とその家族のことを案じている。
自分がきちんと後ろ指さされることなく対応したのか、そんなこと気にしている。
なんとまあ、律儀なこと。
可哀想になって、ほろほろと出た首筋にエアコンの冷風がかからぬようタオルをかける。
父さん、ダイジョウブだよ。父さんはぜんぶちゃんとやったよ。
ダイジョウブと繰り返す。
そうかあ、いいんだね、じゃあこれで。
うん!いいんだよ、ぜんぶオッケー!
何がオッケーなのかよくわかんないけど、とにかくオッケーなのだ。
ダイジョウブとオッケーは、我が家の必需品なのだ。