銀巴里で唄っていた若い頃。

 

「小さな喫茶店」という古いコンチネンタルタンゴを唄った。

(ちなみにどのくらい古いかというと、両親の生まれた年にできたということです)

 

タンゴとは何かとか、タンゴの歌い方とか、ぜんぜん知らず、ただあがた森魚さんがアルバムで唄っていたそのまま、それに憧れて唄った。

 

 

震えるように唄い終え、舞台脇の小さな楽屋に戻ると。

先輩が一言。

「タンゴって難しいのよねえ、なかなか唄えないのよねえ」と言った。

 

それは皮肉だったのかもしれないけど、そうかあ、タンゴってのはそんなに奥深く難しいんだと知った。

 

それから。

タンゴの唄い方はいまだ知らず、今もこの「小さな喫茶店」を唄っている。

 

ずいぶん前に、菅原洋一さんが、これを唄うのをテレビで見てシビレた。

ちょっとした間奏の間に、ひょひょひょんと軽いステップをしたのだ。

粋でオシャレで力が抜けていて、ああこれぞ歌い手のあるべき姿と感動した。

 

こういう遊び心を持てることが、長く唄えるコツでもあるし、ただただ一生懸命に頑張ることがとかくホメられがちな世の中で、この脱力感は、私のココロを捕えた。

 

 

その菅原さんはタンゴの名手でもあって、ご教授いただいたこともないけど、たとえそんなことお尋ねしても「いいのいいの、好きにやればねえ」と、あの微笑みで返されるに違いない。

 

 

で。

あろうことか来月31日に、バンドネオンの小松亮太さんにお誘いを受け、タンゴのコンサートに出演することになった。

(小松さんとは、彼のアルバムでジブリの映画主題歌でもある「さよならの夏」をご一緒したことがご縁)

 

この歌のほかに、「小さな喫茶店」と「UNO~誰が悲しみのバンドネオン」を。

 

バンドネオンを愛する方々とご一緒するコンサート。

幸い、チケットの売れゆきも良いそうで。

夏の終わり、もしご興味のあるかたは、ぜひ。