雨も降って。
近くのネコさんたちは、手持無沙汰だ。
いや、いつもそんな感じか。
このところずっとクロちゃんが見えない。
クロちゃんは、性格の良いノラらしく、このネコを撫でながら一息ついているサラリーマンのおじさんもいた。
クロちゃんを撫でることで、その日一日を頑張れる。
そんな撫で方だった。
祈りに近い撫で方だった。
去年の夏、お腹をわたわたと揺らして息をしていた。
タイル張りの通路に横になって、痩せ切ったお腹の骨が見えた。
夏が終わったら、クロちゃん死んじゃうんじゃないかなあ。
ところが、クロちゃんは復活した。
冬の寒さにも耐えた。
「よく頑張ったね」と声をかけると、開いてんだか閉じてんだかわかんない細い眼に目ヤニが白く見えた。
クロちゃんは、どこか神さまのようだった。
そして。
今、クロちゃんはいない。
きっともう帰ってこないだろう。
昔は、ネコもイヌも、死期を悟ると、どこかへふうと消えた。
ふうと消えられる場所がたくさんあった。
コンクリートで固められていない、原っぱや川べりや、建物のスキマや、そんな死に場所がたくさんあった。
クロちゃんは、どこへ行ったのかなあ。
どこで眠りについたのかなあ。
親の家近くの神社には、新顔のネコが登場した。
三毛のノラだ。
賽銭箱前あたりに座ってるけど、参拝しようと階段を上がると、さささといなくなる。
横の竹あたりに隠れてじっとこっちを見ている。
キレイなミケだ。
あっちもこっちも、ネコがたくさん。
みんな一緒に生きてる。
ああ、おもしろい。
ああ、おかしい。
ああ、うれしい。
ネコさん、ありがとう。