季節の変わり目にはご注意、とはよく聞く。

春先は特に、自律神経やらなにやらと、とにかく注意という。

 

でも冬は冬で、夏は夏で、注意せねばならぬことばかり。

 

 

母親がどうもふらつくという。

午後の散歩も、そんなわけで、中止した。

 

心配だったので、帰ってからネットで調べると。

この時期のふらつきの原因として降圧剤があげられていた。

 

そういえば、母親はそんなクスリを飲んでいる。

一番安心というか、効力の低いというか、そんなものでも、降圧剤には違いない。

 

 

 

家には血圧計がある。

それで、毎日両親そろって測っていたのに、母親はずっと自分は低血圧だと言い続けた。

 

なのに、たまに医者で測ると高血圧。

これは、緊張のせいだと主張し続けた。

 

へんだなあ、へんだなあ。

そんな母親を納得させ、降圧剤を飲むことになったのは、思えばそう昔のことでもない。

 

 

思い込みというのは、かくもオソロシイ。

頑固というのも、困ったものだ。

 

 

高血圧なんかになってたまるか、そんな年寄りみたいなもん。

と思っていたのだろう。

 

でも、年寄りは年寄りなのだった。

 

 

ふらつきはねえ、血圧がさがってるせいかもよ。

と、報告すると心なしかうれしそうだ。

 

このあたりが、なんか女心ぽくて可愛い。

 

 

 

かくいう娘は、もしも、あのまま、母親が起きてこなかったらと、昨晩は心配だった。

バイバイと手を振る姿が最後になったらと不安だった。

 

 

でも、その母親が今朝、電話してきた。

 

 

「クミちゃん、お財布忘れていったわよ」

 

ぎえ。

なんのことはない、財布を忘れたことさえ気づかない娘なのだった。

 

「大丈夫なの?」

 

親はずっと親。

こうして、案じてくれるのだった。