ちょっと時間があまって。
さあて、どっか落ち着いた喫茶店にでも入ろう。
そう思いながら歩いても、なかなかそういう喫茶店が見つからない。
今は、たいていチェーン店化している。
あれ、こんなとこに。
裏通りにある渋い店を見つける。
近寄ると、こういうとこはたいてい喫煙可なのだ。
そういえば、喫茶店というのは、昔からコーヒーと煙だった。
今思えばおそろしいことだけど、煙の中でコーヒーを飲んでいた。
だからなのか、喫茶店が明るく白っぽいことはなかった。
煮しめたような茶色。椅子もテーブルも、そして元は白かったかもしれない壁も。
喫茶店でウェイトレスをするのは、若い女の子の憧れみたいなところがあって、私もやってみた。
三日間だけ、留守にする友達のかわりだった。
高田馬場の古い喫茶店。
ナポリタンやサンドイッチもあって、ランチには近くのOLがたくさんやってきた。
気の利かないウェイトレスだったのだろう。
「ちょっと、これへんじゃない」
と、フォークの並べ方なんかにいちいち文句をつけられた。
ぎええ。こわ。
イジメともいえないのに、イジメに思えた。
今思えば、ただ単に私が不器用だっただけだろう。
でも、やっぱり社会はキビシイなあと思った。
喫茶店は文化祭の模擬店じゃあない、やっぱり社会の一員として働くってのは、キビシイことなんだなあ。と思った。
くっそお。今に見てろ。
って何を見てろなのかわかんないけど、ただただ口惜しかったことを思い出した。
アルバイト。バイト。って、社会との接点だ。
この頃、やたら取り上げられるバイトテロの映像に、社会との接点をうまく処理できない若い学生たちを見る。
きっと口惜しい思いもたくさんあるんだろう。
くっそおと思うことも多いんだろう。
でも、そこは文化祭の模擬店じゃあない。
社会だ。こわいこわい社会だ。
みんなで一緒におふざけ動画を撮りました、なんてことが笑われ許される場所じゃあない。
で、若かった私は。
憧れのウェイトレスに、三日間ですっかりうんざりし、二度とこのバイトをしようとは思わなかった。
夢見心地に、将来喫茶店でもやりたいなんて思わなくなった。
自分の向き不向き、限界を知った。
バイトはまさに社会の入り口でありました。