ここのところ、歌い手であることを、人前で何かせねばならぬ職業であることを、忘れそうになっていた。
もちろん忘れることなどできないけど、舞台と自分の関係が遠いものに思えてきていた。
目の前の老人の、いや、ニンゲンの生き死にのことに、ずうっと頭がいっぱいだった。
人はどうして生まれて、老いて、死ぬのだろう。
どうして、こんなにタイヘンなありさまで老いて死なねばならんのだろう。
スズメだってカラスだって、その死骸を見ることはない。
葉もその時になると、枯れてただ散っていく。
なのにニンゲンだけ、なんで。
そんなこと思いはじめると、無常観でいっぱいになる。
そうだ、こんなことを、みいいんな考えて考えて、生きてきたんだな。
だから、音楽や文学や美術や芸能や、そんなもろもろができたんだろうな。
で。
昨夜は「徹子の部屋コンサート」の東京公演。
80才を過ぎられた加山さん、そして徹子さん。
そのお姿を拝見していると、そのまわりに得も言われぬ「幸せオーラ」が満ちていることがわかる。
加山さんなど、先だってご自分の船を火災で失くされ、絶望の淵に立たれた。
それでも、「人のせいにしないこと」とスピーチで話された。
ただ「ありがとう」という気持ち、それしかない。
それが、周りを幸せで満たす。
徹子さんは、変らず、というか、また一層元気になられている。少女のような可愛さ。
大先輩のこのかたがたの幸せオーラは、私たちを幸せにする。
なにがあっても、どうあっても、幸せな気持ちを自身に保つ。
幸せの泉を絶やさぬよう生きること。
えてして、この泉は涸れてしまいそうになる。
それでも、たやさぬよう、いつもいつも新しい水が湧き出るよう生きること。
ただそこにおられるだけで、先輩のかたがたには教えられることが多い。
このコンサートは、明日、大阪でもう一回あります。