ちょうどドキュメンタリーを見たばかりだった。
知的障碍者を抱える家族の苦しみ。
その中でも、自閉症の弟と暮らす兄の話は、本当に衝撃的だった。
「いつもこんなふうです」
と、兄の案内で部屋に通された記者が見たのは、荒れ果てた部屋に膝を抱えるように座る男性の背中。
驚いたのは、その住まいの状況だ。
凄まじい破壊。
壁ははがされ、便器も砕け、でも、そこに人が二人住んでいる。
兄は、自動車工場の正社員として働きながら、弟との生活を続けている。
父親は病死、そして母親は家出。
「自分の幸せなんて考えたこともなかったです」
地獄の日々の中、弟をなんとかできないかと、相談しに行った市からは何の音沙汰もなく、やっと忘れたころに審査が始まる。
少しの希望を持って赴いた市役所から出てきた兄から、表情は消えていた。
「地域と上手い具合にやっているようなので、そのままでいてください」
そんな内容の通達だった。
「自分の幸せなんで考えたこともなかった」
精も根も尽き果てた兄は、こう静かに話し、そしてそのあと、カラダとココロに不調を起こした。
うつ病で入院してしまったのだった。
ここで、やっと市は弟を施設に入居させる。
なんとやるせない。
どう考えればいいのだろう。
どうしたらいいのだろう。
そんなモヤモヤを持ったまま、昨日コンサートに出かけた。
主催が「社会福祉法人みのり会」
なんと、まさにこのドキュメンタリーと同じ、知的障碍者を家族に持つ方々だった。
それを支援するチャリティーコンサートだった。
楽屋に来てくださったスタッフの女性に、お話をうかがう。
「私たち親が死んだ後も、子供をちゃんと生活させねばなりません」
お母さまたちは、みな、美しい。
川崎市は、幸いに、とても理解のある自治体らしい。
そのおかげで、障碍のある人たちが、きちんと働けるような環境を提示してくれるらしい。
そうはいっても、自分たちでしなければならないことはたくさんある。
お金の問題もしかり。
ロビーに絵や工作品やパンなどが並ぶ。
その収益金が、運営費になる。
お母さまたちは、みんな、美しい。
たくましく、美しい。
このことに、励まされ、勇気づけられる。
そうか、みんなで生きる術はある、生き合う術はある。
地域で生き合う。
みんなで生き合う。
いただいた「あんぱん」をほおばった。
美味しかった。