樹木希林さんとは、一回だけお会いしたことがある。
ずいぶん前のことで、たしか、BSの番組だった。
昭和をテーマに、いろいろな方々のトークで構成されていたと記憶している。
希林さんの楽屋にご挨拶にうかがうと、日常着のような和服でそろりと出ていらして、丁寧なご挨拶を受けた。
やはり「ただもの」ではないなあと思った。
なんのお化粧もなく、お一人でただそこにおられるのに、なにか違う。
トロリとしている。
上等のなめし皮のような感じだ。
何も足さず、何も引かず、ただその人がそこにいる。
後にも先にも、こういう雰囲気のかたは初めてだった。
この番組では、亡くなった西城秀樹さんもご一緒で、お二人のテレビドラマのお話も聞くことができた。
で。私がなぜそこにいたのか。
よくわからない。思い出せない。
ただ、「茶目子の一日」の一節をアカペラで唄った。
夜が明けたああ。夜が明けたあ。と唄った。
皆さんが、ぽっくりとした顔で私を見ていた記憶がある。
ただ、この歌を歌う前、脚本家の市川森一さんが、「素晴らしいんです、クミコさんのこの歌」と絶賛の前振りをしてくださった。
初めてお会いしたのにどうしてと、ありがたく、でも不可思議で、市川さんを見つめた。
それから、市川さんとのご縁が続くことになった。
その市川さんが亡くなり。
西城さんも亡くなり。
希林さんも亡くなった。
その番組では、ちゃぶ台を囲んでお話をした。
ちゃぶ台のあっちもこっちも、座っていた方々が、次々にいなくなってしまった。
昭和は、こうして消えていく。
昨日。
昭和三年生まれの父親が。
明日は何の日だ、というので、「敬老の日だよ、旗日だよ」
ついでに「うちはいつも敬老の日だけどね」というと。
「そうだなあ、ほんとだなあ」としみじみ言った。
なんだか、うれしくなった。