父親の病院に行く。
精神安定に良い漢方薬と、脳の血流を増やす薬の二つ。
これをもらわねばならない。
二か月もらいたい。
そうなると、本人も一緒でないと無理。
父親が、どうもふらふらするなあ、と言っている。
やっぱり、歳とったなあと言っている。
先生は、この頃、診察日が減っている。
在宅医療に出かけていて、週に三日、午後だけ。
それでも、なかなかに親身な人で、きちんとお話をしてくれる。
父親の目を見て話してくれる。
「また、二か月後に、元気でお会いしましょうね」
と、父親のヒザに手を置いて言ってくれる。
父親が突然。
「二人は、声を小さくして話してますか」と先生と私を見て言う。
あ、そうだ、この頃耳が遠くなっているのだ。
「耳が遠いと脳の刺激に影響しますからね」
それではと、そこから耳鼻科に行く。
幸い、昨日は病院の「空き日」のようだった。
どこも患者が少ない。ラッキー。
しばらくぶりに行く耳鼻科は、受付の女性がつっけんどんで、気分悪い。
そういえば、この頃このケースが増えた。
私の近所の内科では、医者に個人的恨みでもあるのかと思うほど、態度の悪い女性がマスクをして座っていた。
たいていこういう人は美人なのだ。
私みたいな美人がさ、なんでこんなとこで働かされてんのよ、疲れてやってらんないわよ的オーラが出ている。
それでも、がまんがまん。
聴力検査。
結果、父親の聴力は、いぜんと大して変わっていないというのだった。
こんなに聞こえなくなっているのに、なんで。
もしかしたら、人間の聴力の衰えは、機械で測れない何かしらの要因があるのかもしれない。
人間というのは、それほど難しくて繊細な生き物なのかもしれない。
どうしたもんかなあ。
父親を先に帰し、一人で薬局のソファで考える。
処方箋を渡し、クスリが出てくるまでの、ちょっとした時間、ぐるぐるいろんなことが頭をまわる。
ううむ。ううむ。
ま、いいや。
しょうがない。
帰ったら、背中が痛い。
ファミレスで飲んだビールが、やけにまわっている。
私、おっさんみたいだなあ。
一日肉体労働してきたおっさんみたいだなあ。
私も歳とったなあ。ぼそっと思った。