「クミ、いる?」
私をクミと呼ぶ懐かしい声が楽屋に。
その瞬間誰だかわかった。
アッちゃんだ。
思えば19の時以来。
大学の演劇サークルの芝居に、「歌手」役としてやってきたアッちゃんは、それまで見たこともないような、スケールのでかい、愛の人だった。
そしてそのアッちゃんとギター弾きの二人に合わせ、みんなで唄った。
そうしたら、頭がぶっとぶほど気持ちがいい。
唄うって、演じるより、もっともっと気持ちがいい。
てんで、芝居をやめ、歌の道を行くことにした。
だから、アッちゃんがいなければ、私は歌い手にはなっていなかったかもしれない。
そのアッちゃんは、その頃からタケと呼ぶ恋人と、それからすぐに結婚し、子供を産んだ。たくさん産んだ。
そのタケが、タケカワユキヒデさんで、彼らはゴダイゴというグループであっという間に、人気者になった。
もうその頃には、逆に会うこともなくなった。
会いづらくなった。
それからずっと月日は経ち。
タケカワさんとどこかでばったりご一緒することはあっても、アッちゃんに会えることはなかった。
そのアッちゃんが、NHKホールの楽屋に来てくれた。
タケカワさんも一緒に。
「クミに会いに来たんだよ」
え、なぜなぜと、歓喜で抱き合いながら聞く私に、アッちゃんは変わらぬ大きな笑顔で答えた。
二人と涙が出るほど笑い、送り出した後、ふと思った。
そうだ、二人で私を励ましに来てくれたんだ。
このところどうも元気のなさそうな私をブログで見て、ここはどうしても会いに行こう、そう思ってくれたんだ。
「親のあと、今度は自分の番、なんて思っちゃダメだよ」
タケカワさんがいう。
「そうだよそうだよ、今度ご飯たべよう」
アッちゃんが言う。
本番前に、こうして私は元気をもらった。
愛をもらった。
そうして。
これまたしばらくぶりのアグネスさんも。
「主人がクミコさんによろしくって」
そうなのだ。アグネスさんのご主人は、宴会要員で所属していたサークルの同級生なのだった。
ここでも40年以上の時が経つ。
学園紛争で荒れに荒れていた大学を、思い出した。
あれって、青春だったなあ。
鼻から目にじんと熱いものが走った。