アルビノーニのアダージョ。
これが昨日あたりからずうっとテレビから流れてくる。
この曲に弱い。
これ聞くともう心のどこか奥のほうが、うずうず悲しくなってくる。
昔、向田邦子の「あうん」というドラマのテーマ曲にもなっていたので、オープニングの狛犬の映像も同時に浮かんでくる。
戦争に向かっていく時代の話だった。
そうして、今テレビから流れてくるのは、その太平洋戦争の記録DVD発売の宣伝だった。
そこに映る特攻隊の青年の姿や、外地を行く兵隊さんの笑顔や、震える沖縄の子供の姿や。
「見ないわよ、こんなの」と母親が言う。
イヤだよ、戦争なんか、という。
それでも、テレビをつけてるとこのCMは流れてきて防ぎようがない。
「三年八か月の闘い」に、三年八か月も戦争やってたんだもんひどいよと、テレビに向かって母親はしゃべってる。
昨日。
NHKスペシャル「未解決事件」で、朝日新聞阪神支局襲撃事件を取り上げていた。
殺された小尻記者は、今生きていたら61才だという。
犯人逮捕を願っていたご両親も、時効成立後に亡くなったという。
きっと、私の両親と同じくらいの年齢だろう。
「もう、冗談いって笑っちゃうのよ、だって哀しすぎるでしょこんなの」
お母さんは、顔をぐしゃぐしゃにして言う。
涙がぼしゃぼしゃつたう。
そのお母さんに、そっと手をさしのべるお父さん。
二人の映像はこうして残っている。
切ない。
ああ、切ない。
どれもこれも切なすぎる。
この切なさをあらわすのに、アルビノーニのアダージョは、これ以上ないくらいぴったりだ。
どうにもならない切なさをあらわすのに、こんなにぴったりな音楽はないと思うほどだ。
きっと。神さまから贈られた人間への「悼み」のメロディーなんじゃないかと思う。
ああ、美しい。ああ、切ない。
どうしようもないほど、切ない。