雪の日なのに忙しい。
留守にしていたので、洗濯やらなにやらで実家に行き、そのあと、降り出した雪の中、スタジオに行く。
レコーディング最終段階のマスタリング。
エンジニアは川﨑さん。
この道では、巨匠とも呼ばれる人で、いろんなアーチストが押し寄せる。
案の定、忙しい川﨑さんだけど、今回はいつもと違う私の思い入れにとことん寄り添ってくださる。
「えっと、なんていうか、なんにもなくなっちゃう感じが欲しいんです」
「それって真空な感じ?」
「そうそう!」
「そうかあ。わかりました」
今回のレコーディングでは、こうして「わかってもらう」ことがすべてだった気がする。
皆さんが私の声とかイメージで、こうだろうこうあってほしい、という所と私自身がすこしズレている。
うまそうに聞こえたくないんです。
えらそうに、って感じになりたくないんです。
感情の抜き差しがわかりたいんです。
こんな注文に耳を傾けてくださったスタッフの皆さんには、なんとも感謝しかない。
これが正しかったのかそうでなかったのか。
それはわからない。
でも、自分が後悔するものはイヤだと思った。
こういう自分が好きなんだ、と思えるものを残したかった。
だって、自分のことだもの。
てなわけで、マスタリングを終え、外に出るともう驚くほどの銀世界。
スタジオのマスコット、蓄音機に耳をかたむけるニッパー君の像の足元には、誰かが作ったちっちゃな雪だるまが寄り添っている。
そして、もう薄暗い雪昏に、建設中の国立競技場が、まるで廃墟のように建っている。
「これから」という建物が、「これまで」に見えてしまう不思議さ。不気味さ。
帰りの電車はもうめちゃくちゃに混んでて、雑巾みたいにへとへとになった。
でも、歌一つは残ったから。
たとえ、私がいなくなっても、歌一つは残ったから。
そんな気持ちになった。