税務署に行く。
この二年、それまで父親がやっていた確定申告を代わりにしている。
何が苦手といって、お金、数字。
こういうものに関することは、極力迂回して生きてきた。
見て見ないふりをしていた。
自分でやらずにすむなら、それに越したことはなかった。
けれど。
親のことはそうもいかない。
スマホの計算機片手に、がんばる。
ここ二年はなんとなくコツもわかって、今年もちょろいさ、なんて思ってた。
ところが今年。
医療費控除の書き方がすっかり変わってしまった。
説明をいくら読んでもわからない。
これじゃパソコンと同じだ。
頭がずきずきしてきて、背中がぱりぱりしてくる。
それでどうにもならず、税務署に駆け込んだのだった。
「領収書提出をなくして簡単になりました、って書いてありますけど、そんなことないです。もっと大変になりました」
といって、相談員の女性に泣きつく。
女性も書類を覗き込み、同じように困った顔をしている。
それでもやがて。
「ええっと、そうですね、これはこうで」
ええっ、それでいいんですか。良かったあ。良かったあ。
一気に気持ちが明るくなった。
そこらじゅうの人にありがとうと握手したい気分。
で。
今朝。
起きてみると、右手首が痛い。
コップやヤカンを持つとぎりりと痛む。
どうも痛む角度があるようだ。
なんでだろ。
そうだ、スマホの計算機のせいだ。
小さい画面で、小指を立てて、何時間も数字と格闘してたせいだ。
なんともナサケナイ。
しかし、こういうのってある種の激務だ。
老人にできるものではない。
みんなどうしてるんだろう。
誰にも頼れない人、きっとたくさんたくさんいるはずだもの。
ほんとに、みんなどうやりすごしてるんだろう。
歳をとるにつれ、こうして見えないものが見えてくる。
世の中は、まったく網戸みたいだ。
よおく目をこらすと、そこにちゃんと網目があるんだなあ。
向うとこっちを隔てる網目があるんだなあ。
そんなことつらつら思う朝。