新幹線に乗るとあっという間に宇都宮。
栃木放送のFM開局記念ということで、新沼謙治さんと大石まどかさんと三人で舞台を務める。
まどかさんは、恩師の船村徹さんが栃木出身ということで、宇都宮にはご縁が深く。
新沼さんにいたっては、なんとこの街で左官を三年もやっていたという。
で、私はといえば、なんにもない。
そんなんでご一緒していいのかと思う。
でもよくよく考えてみれば「宇都宮」に初めて行ったのは、もう40年も昔のこと。
そのころ秋葉原でバイトをしていて、その老社長が宇都宮にナニカシラをとどけてくれという。
そのナニカシラがナンだったのか、もう忘れてしまったが、その頃この小さなバイト先の事務所には、いわゆる取り立てやのヤーサンのような人がしょっちゅう出入りしていた。
「じいさんが死んだっていいんだけどよ、金払ってくれよな」
そんなドーカツばかり聞いていた。
福島の須賀川出身のこの老社長は「そういったって、ないものはないんだから」と、福島弁で弱々しく言う。
可哀想だなあと思ったけど、今思えば、あれはあれで「かけひき」のようなもんだったのかもしれない。
ドーカツするほうとされるほうと。
そのどちらも、まだまだ余裕のあった時代だった。
で。
その社長の命令で新幹線だっかた在来線だったか、それに乗り宇都宮に着いた。
東京と埼玉の往復しか知らなかった私は、もう楽しくて楽しくて。
渡したナニカシラも相手もどんなんだったかも記憶にないけど、宇都宮だけは今も鮮明だ。
終演後の握手会でお手紙をいただいた。
帰って開けて見ると、そのかたは新沼さんのファンのかたで、以前ラジオで二人の掛け合いを聴いてから、私のことも気にしてくださっていたという。
丁寧で誠実なお手紙から、新沼さんに通じるお人柄が見えてくる。
それにしても。
宇都宮を第二の故郷という新沼さんの左官としての青春時代。
歳も大して違わないので、おそらく同じようなものを見聞きしながら生きていた頃だ。
ナニモノかになりたいともがき探りながら生きていた若い頃の匂いを、ふっと思いだした。
でも、それはあの時代そのものの匂いなのかもしれないなあ。