二階の台所で洗い物をしていると。

なにかおかしい。

いつもと違う。

 

排水の音がちょっと違う気がする。

 

でも、蛇口をしめると、気のせいかと思いそのまま。

 

 

 

洗濯物をたたみ、父のタンスに入れに行く。

 

タオルを洗面所にしまいに行く。

 

 

と。

 

あっ。じゃあじゃあいってる!

 

 

洗面所の蛇口から、勢いよくお湯が流れている。

 

 

 

絵を描いていて、そのクレヨンの汚れを洗って、そんでもって二階に昼ご飯を食べにあがってきて。

 

 

蛇口のことを、すっかり忘れていたんだなあ。

 

 

 

 

「父さん、お水出しっぱなしだったよ」

というと、目を丸くした。

 

そんなことが自分に起こることを、予想もしていない目だった。

 

 

 

 

ついこの前は、玄関の電気をつけっぱなしで寝てしまったらしい。

 

 

まあさあ、電気も水道も、お金で解決できることはいいけどさ、万が一命にかかわることになったら大変だからね。

 

と注意する。

 

明るく、なんでもないように、でもきちんと、注意する。

 

 

 

 

父親は「ありがとう」とよく言う。

 

私の帰り際にも、いつも「ありがとう」という。

 

 

ときどきそれに、「よろしくお願いします」がつく。

 

 

親に「よろしくお願いします」といわれると照れくさい。

 

 

 

 

父親の塗り絵がまた一枚完成。

 

良い色だ。

 

「衰え知らずだね」とほめる。

 

 

 

「衰え知らずかあ」

と、父親がつぶやいている。

 

 

 

鼻の奥がツンとした。