「いわなければわからないよ」
大学を卒業して、バンド活動を始めたころ、ボーイフレンドに言われた。
ちゃんと気持ちをいわなければ何も伝わらない、という当たり前のことだったけど、その当時、私はぐずぐずと気持ちをしまい込み、すねたりふてくされたりしていた。
気持ちはいわなければわからない。
なるほどなあと思った。
その頃は「男は黙ってナントカビール」みたいなCMもあったりして、男だけじゃなく、女も沈黙ってかっこいいと思ってたふしがあった。
言わないことをわかる、それこそ「忖度」する。
以心伝心。
どうやら、これは日本的なものだったらしく、国際的な状況がひろがるにつれ、自分の意見はきちんという、いわねばわからん、ということがみんなわかってきた。
そんなことを思いだしたのは、今回の貴乃花親方の件。
もっときちんと話せばいいのに。
と大方の人は思った。
でも、きっと、この天才力士は、これまでの人生で「話す」ことが「話さない」ことよりリスキーであると知ったのかもしれない。とも思った。
昔。女優の宮沢りえさんとの結婚騒動。
あんなに幸せそうだったのに、おそろいのピンク色の着物で会見したのに、別れるときの顚末は、それこそその美しい着物を裂くような無残だった。
「いくら電話しても連絡が取れないんです」と宮沢さんは泣いた。
やつれきった宮沢さんの姿に、なんてえ男だ、と若い私も怒った。
ダメならダメで、別れるなら別れるで、きちんと相手と話せよ。
その時のことを、思い出した。
あの時、マスコミの騒動で「話さない」ことを選び、それが正解だと貴乃花は学んだのだろうか。
それから立派な力士として身を立て今に至る、沈黙は確固たる彼の信念なのだろうか。
なんてえことをつらつら書いてたら、突然部屋にびいびいと音がして、「地震です地震です」とスマホから声がする。
来たな、ついに大地震。
株価もあがってバブリー感漂う今来たな。
と身構えたけど、うんでもすんでもない。
地震予知、ってやっぱりできないのかなあ。
と、気落ちする朝。