耳が痛いというので、母親を連れて耳鼻科に出かける。

 

このごろはネットで「評判」というものも出ていて、そんなものと思いながらも、やっぱり参考にしてしまう。

 

 

評判の良いクリニックは比較的近く、それでもタクシーに乗る。

 

 

 

耳鼻科は女医さんが多い。

 

やはり肉体的精神的に、女性向きなのかもしれない。

 

 

 

待合室で母親と並んでいると、子供スペースに一台、そして大人向きに一台、ビデオテレビがちょうど直角の位置に設置されている。

 

 

だれも見ていない。

 

見てるのは、そこらへんに座った私と母親だけ。

 

 

子供用は「アンパンマン」大人用は「プラネットアース」。

 

 

 

アタマあたりの部分を女の子に差し出すアンパンマン、目を移すと、今度は鹿を追うハイエナ。

 

 

ああ、なんちゅうことだ。

この二台のテレビ。

 

 

命満載だ。

 

感動嵐だ。

 

 

生きるってすごいなあ。

なんだか胸が熱いなあ。

大声で叫びたくなっちゃうなあ。

 

 

 

わああん。

 

叫んだのはベビーカーの子供だった。

 

 

待合室には、今この時を生きる子供と若いお母さんもいるのだった

 

 

 

幸い、母親の耳はなんてことなかった。

 

 

「耳は掃除しなくていいんですよ、猫だって犬だって掃除してないでしょ」

女医さんが言う。

 

 

ただでさえ老人の皮膚は弱く傷つきやすい。

なにもしないに限るということだ。

 

 

このところちょっと塞ぎ気味だった母親の顔が明るくなっている。

 

 

ほっ。

 

 

とりあえず一難去ったような。

そんな寒い日。