「名曲なんとか」で「ジュトゥヴー」をフランス語で唄ってほしいんだって。

 

 

それが最初にきいた話だった。

 

 

その「名曲なんとか」が「名曲アルバム」だとわかった時、私のアタマは沸騰した。

 

 

あのねえ、その「名曲アルバム」って、ちゃんとした音楽流す伝統的番組だよ。

いいかげんなことできないんだよ。

ライブラリーみたいに、ずっと残っちゃうものなんだよ。

 

 

 

クミコさんにぜひ、といってきてくださったといっても、私はフランス語で唄ってなどいない。

 

なにしろナンチャッテシャンソン歌手なのだ。

 

 

 

 

フランス語はむずかしい。

 

英語と違って耳慣れていない。

大学一年のとき、外国語講義としてちょっとかじっただけだ。

 

 

 

それを、そんな私が、やっていいのか。

 

 

他に唄える人、ごまんといるからさあ、お断りしてよ。

そう懇願したものの、そうもいかず。

 

 

昨日。NHKのスタジオに入った。

デカいスタジオだ。

 

 

そこに、オーケストラ!!

 

ぎええええ。

室内楽編成じゃない。

大オーケストラ!!

 

 

そして。

指揮者のもと、同時録音だ。

 

 

間違ったらアウト。

 

 

ひええええええ。

 

背中に氷柱が入れられた気持ち。

 

 

 

 

控室にフランス語のレクチャーをしてくださる先生がおられる。

 

これから本番なのに、そこでまず発音修正。

 

 

 

 

「これでできたら奇跡だなあ」

と、思わずつぶやいた言葉が、マイクに乗っていて、どこからか笑いが聞こえる。

 

 

でも、奇跡というのは起きるものだ。

いや、起こすものだ。

 

 

唄ってしまったのだった。

 

なんとか、唄ってしまったのだった。

 

 

自分で自分をほめてあげたい。

いやいや、そんなもんじゃないけど、なにごとも気力なのだと思った。

 

 

 

私は私の「ジュトゥヴー」を唄うのだ。

私だって、だてにここまで歌手やってきたんじゃないんだから。

そんな、火事場の馬鹿力的気力。

 

 

 

なわけで。

オリジナルよりずっとキーの下がった、クミコ版ジュトゥヴーが録れました。

 

もしお蔵入りしなければ、どこかで流れ、皆さまのお耳に入るでしょう。

 

 

 

アブラ汗の混じった、このサティの名曲を、ぜひともお楽しみに。