台風一過の中、母親の病院に行く。
母親本人は、台風と聞いた時から、もう行く気力をなくしていたし、風も強かったので、整形外科に行くのに転んでしまっては冗談にもならないと、一人で出かける。
この頃、こうして一人でクスリをもらいに病院に行くことが増えた。
患者はどんどん歳をとるし、そりゃあ当然だわいなあと思う。
病院に行くには歳をとりすぎた、ってことだ。
時々、一人で本当に大丈夫なんだろうかという老人も見かける。
一つ一つの説明やらなんやら、どうみても理解できていないんじゃないかと思うことがある。
耳も遠いし、理解力も衰える。
私にカラダが二つや三つあったら、連れ添ってあげられるのにと何回思ったことか。
駅前の一番賑やかな商店街に、シャッターが降りた店が。
通り過ぎるとき、小さな貼り紙が見えた。
93という数字があった気がして、また戻った。
「93年間、ご愛顧いただきありがとうございました」
メガネ屋さんの閉店の挨拶だった。
それも、大きな間口に、小さな貼り紙。
だれも気付かないような、小さな貼り紙。
93年間かあ。
私がこの街に住むようになって(その間、この駅の東西南北あっちこっちに移ったけど)30年。
ずいぶん経ったと思ったけど、この店にはかなわない。
93年といったら両親より四つも年上だ。
大正の最後の年。
昭和にまたがった年。
93という数字に、無念がみえる。
もう少しで100年だったんですよ。という無念。
メガネ屋激戦区ともいわれる、この商店街。
昔は高級品だったけど、今は日常品のメガネ。
どんどん新しいチェーン店ができる。
ご苦労さまでした。
ずいぶん前、一回しか入ったことがないけど、心の中で頭を下げた。