まさに建設中の国立競技場。
そのそばにあるビクタースタジオ。
千駄ヶ谷の駅も、街の様相も変わろうとしている。
将棋会館もある、どちらかといえば「のどか」だった街なのに、オリンピックに向けて、むんむんした空気をもちはじめた。
なんかサミシイなあと思いながら二日間、スタジオに行く。
一日目は、アルバムのマスタリング。
今や大巨匠といわれる川崎さんの「川崎ルーム」へ。
日焼けした川崎さんは、四台もドローンを持っていて、多摩川で飛ばしているらしい。
えええええっ、と驚くと、いやいやどれもおもちゃみたいなもんでと照れる。
200グラムが、おもちゃかそうでないかのラインらしい。
それを過ぎると、飛行物体としての規制が絡むらしい。
一流の仕事をしている人は、たいていナニカシラの趣味を持っている人が多い。
そこいくと、まったく一流になれない私だ。
アルバムは、かなり良い。
作りこまれて、自分の声が、サウンドの一つに組み込まれていく様に、これまでない安心を覚える。
こういうアルバムは、まったく初めて。
好き好きが分かれるものではあるだろうし、感情の入れ込みを抑制したものが、クミコらしくないと思う人もいるだろう。
でも、いい。
変わることを恐れていては、なにも始まらない。
それに、ココロなんて変わらない。
ただいろんな術を知ることで、閉じない音楽をしていきたいと思う。
そして翌日は、タンゴのアルバムに参加。
大好きなピアソラの曲をはじめて唄う。
9人編成の若いバンドメンバーと同時録音をする。
こういうものは、その場で何回かリハーサルをして、気持ちを合わせ、一気に録っていくほうがいい。
生きのいい歌が録れる。
これは、これまでの私の延長線上にあるものだ。
こうしてみると、ここ二日、両極の音楽をしていたように思える。
どっちもいい。
ただ、オリジナルを作るというのは、やっぱりエネルギーがいるものだ。
なあんにもないところから、芽を出させ、花を咲かせるというのは、これはどうにもすごいことだと思う。
だから作品にたいして、謙虚になる。
生まれてくれた歌たちに、感謝し、大切な気持ちで唄う。
それこそ、生まれてくれてありがとう、だ。
「デラシネ」フランス語表記もついたこのアルバム、あと一か月後にリリースされます。
意味は根無し草。
なるほど。
うまいタイトルつけてくれました、松本さん。