マスタリングのスタジオに行こうと。

 

実家からJRの駅に向かう。

 

 

向かう途中、あ、今日って阿波踊りだと気づく。

 

やばいなあ、人多そうだなあ。地下鉄にしようかなあ。

 

 

でもまあいっか、と歩いていると。

 

 

どどどどどんどどどどん。と遠くに太鼓の響きがする。

 

 

 

その瞬間、もうカラダがそっちに向かっていた。

 

あれあれあれと思ううちに、カラダが勝手に向かっていた。

 

 

 

あれあれあれと思ううち、アーケードの中に入り込んで、気づくともう阿波踊りの「連」の後ろにひっついていた。

 

 

そんでまた、あれあれあれと思ううち、太鼓のわきにひっつき、鳴り物のわきもひっついて、そんでもって、踊る人たちのわきにもひっついていた。

 

 

 

どどどどんどどどん、かちかちかち、どどどんどどどん、かちかちかちかち。

 

 

 

カラダがじいいんと熱くなって、目も熱くなって、涙がこぼれそうになって、叫びだしたくなって。

 

 

 

ああ、なんていいんだろう。阿波踊り。

 

 

 

 

笑顔の人もいるけど、呆けたような人も多い。

 

 

私も呆けた顔をしてる。

 

 

どどどどんどんで、トランス状態に入ってる。

 

 

これが祭りだ。

なんとも抗しがたい祭りの魅力だ。

 

 

理性なんか、どっかいっちゃって、呆けた顔でただただ「連」についていく。

 

 

 

これって何かに似てる。

 

あ、そうだ、ハーメルンの笛吹きだ。

 

 

 

笛吹きの少年の後を、無表情でついていく子供みたいだ。

 

 

 

 

 

あ。

私、これからスタジオなんだ。

 

我に返る。

 

 

 

あわてて電車のホームに上がる。

 

 

ああ、良かった、行くとこあって。

 

 

なかったら、ずっとどっかに紛れちゃったかもしれなかった。

 

笛吹きに従った子供たちみたいに、ずうっとどっかに行ったまま帰らなくなったかもしれなかった。

 

 

 

 

初めての阿波踊りじゃあないのに、なんだ私。

 

年をとってくと、子供に近くなってくってことかなあ。

 

帰り道なんか忘れちゃう子供になってくってことかなあ。

 

 

 

 

ふうう。

 

ホームでため息ついた。

 

 

アブナイとこだった。