大塚博堂さんの歌を唄ったことがあった。
「めぐり逢い紡いで」をコンサートで。
「わたしはもう女です」をアルバムに。
博堂さんの大ファンのかたと、こうしてご縁ができた。
名古屋のコンサートでは、必ずご友人たちと来てくださった。
歌を趣味にされているかたというのは、えてして明るい。
地上から数センチ浮いているような浮遊感かある。
ご年齢からすれば、もっと重々しくても不思議はないのに、その笑顔も物腰も、70年代のベルボトムをはいた青年のように軽く明るい。
年をとっても、かくありたいなあといつも思っていた。
年をとって重くなるのは、当り前すぎる。
そのかたが、去年の名古屋コンサートの後、サイン会で。
「ぼく、ガンになっちゃって。もうステージ4なんですよ。
だから、しばらく入院します。」
ちょっとそこらへんをケガしたかのようにいう。
それほど明るい。
返す言葉を重くできない軽さがある。
「またきっと、きっとお会いしましょうね」
そして。
昨日。
事務所に、その方のお友達から、そのかたが亡くなったと知らせが入った。
「なんかねえ、こんなことになっちゃいました。すみませんねえ、皆さんに心配かけちゃって」
そんな声が聞こえてきそうだ。
そのかたが、どういう人生を送ってこられたのか知らない。
そのかたのご家族のことも知らない。
ただ、名古屋にうかがうと、そのかたがいらした。
いつもニコニコと、屈託ない笑顔でそこにいらした。
背負うものの重さも、悲しみも感じさせない笑顔だった。
今は。
きっと天国で、だれよりも愛した大塚博堂さんとデュエットの準備運動でもしているに違いない。
若くしてなくなった博堂さんを前に、闘病でカラダ固くなっちゃいましたから、いまからほぐしますね、なんて一生懸命屈伸運動でもしているに違いない。
キモッチョさん、安らかに。