もうすぐ89歳にならんとする両親。
老人というのは、年をとると本来の「力」が抜けてきて、少しは穏やかになるかと思いきや。
そんなこと、ない。
まったく、ない。
つねにぎゃあぎゃあとモメテいる。
あるいは、モメる火種をふつふつと隠している。
今朝も今朝とて。
母親から父親への不満電話あり。
あのねえ、もうそういうの、いいかげんやめたら。
何十年、おんなじようなこといってんの。
と諭すも。
いや、そんなことはない。
父親はジジイになったのだ。
だからこんなにうるさいのだ。
という。
あのねえ、おんなじだよ、基本ニンゲンは変わらないから。
子供のころから、二人ともおんなじ。
いつもぎゃあぎゃあいってやりあってた。
と、また諭すも、がんとして聞かない。
このガンとしたとここそ、母親も「ババア」になった証拠なのだ。
年を重ねて、ニンゲンができてくる、なんてことはない。
もちろんそういう人もいるし、そうあるべきだし、そうなりたいけど。
どうも身近な両親を見ていると、どんどんどんどんカタマリのようになってる気がする。
これまでふわっと包んでた空気とか水分とか、そんなやわらかいものが抜けて、ごりごりとカタマリになってるようだ。
困ったなあ。老人のカタマリ。
あのねえ、魔法はないからね。
昔に戻れる、若返る魔法はないからね。
そう電話口でいいながら、そうか、確かに魔法はないな、と自分で思わず言ってしまった言葉に、なるほどとうなずく。
しょうがないなあ、私も。
子供は親を選べないけど、母さんは父さんを選んだんだからね。
自分の責任なんだからね。
今度はそういってみる。
「だって、こんなになるなんて思ってなかったもん」
「だから、おんなじだって、昔から二人ともおんなじ」
堂々巡りだ。
でもまあ、こうしてガス抜きをした母親は、また元気になったはず。
これにて一件落着。
まったくなあ、親ちゅうのは。
子供みたいだなあ。もう。