「はい、そうですねえ、心臓はねえ、手術してるからこのくらいですよねえ」
医者が、パソコンの画面を見ながらいう。
血液検査のデータが、ずらっと並んでいる。
でも、見えない。
小さくて私たちには見えない。
見えないのは、わからない、ってことだ。
「先生、今日の結果プリントアウトしたのいただけます?」
思い余ってそういう。
医者は、その瞬間私の顔を見る。
「なにいってんだ」という顔で見る。
ナメテんじゃねえぞ。
こっちは、そういう顔で医者を見る。
最初の医者から、次の次。
今度の医者は若造だ。
若造が悪いわけじゃない。
だけど、この医者は、まだまだほんとに若造だ。
診察中にかかってきた院内携帯でも、その指示を大声でいう。
「インターンにやらせてどうしたこうした」
お前のほうがよっぽどインターンみたいだよ。
心の中でつぶやく。
父親は耳も遠いし、ただ目の前の出来事を曖昧な笑顔で見つめている。
「尿酸値高いですよね?」
気になっていたことを聞く。
ここ数か月で急に高くなった。
その変化はなんなのか聞きたい。
医者の経験からこうかもしれないということを聞きたい。
でも。
「まあ、腎臓ってのは、若い時と比べれば40パーセント低くなりますからね」
あげく。
「ネットで調べれば、良い食べ物とかわかりますから」
脈も取らず、聴診器もあてず。
こんなの医者か。
パソコンの画面でデータ見て、それこそネットでわかることしゃべってて、それが医者か。
アタマでっかちの、その医者のアタマをうしろから眺め、ごっつんと一発かましてやりたいと思った。
病院からすれば、医者からすれば。
まあ、こんな高齢者、ぜんぜん儲からないし、まだ長生きしそうだし。
まさに「お荷物」なのかもしれない。
破たん寸前の保険医療制度を思えば、その気持ちもわかる。
でもねえ。
困ったことに、高齢者も生身の人間なんですわ。
ちゃんと心があるんですわ。
ないがしろにされたら、されたことってなんだかわかるんですわ。
もうちょっと、もうちょっとだけ、うまくやってくださいな、先生。
歌の歌詞にだってあるでしょ。
「死ぬまでだまして」とか「死ぬまでウソついて」とか。
若造には、まだ無理か、こういうの。