本当に、この国の医療はこれからどうなるんだろう。

 

病院に行くたび思う。

 

 

お年寄りばかりだ。

 

 

 

 

 

 

もちろん、うちもその一人。

 

母親と私。

 

 

 

予約時間より早めに行くも、なかなか順番が来ない。

 

4番と9番とを除いた8つの診療室。

 

2番が母親の主治医。

優しい女医さんだ。

 

 

誰の出入りもないまま30分も経った頃。

 

先生、もしかしていないんじゃないだろうかと不審に思い始めたころ。

その2番のドアが開いた。

 

中からオジイサンとその娘さんらしき女性。

 

 

よほど何かしらの事情を抱えているのだろう。

でないと、これだけの時間はかからない。

 

 

そのオジイサンは、でも、とてもお洒落な人だった。

 

 

ほどよくダメージのある茶色い皮ジャン。

そして黒に近いけど黒じゃないコーデュロイパンツ。

 

もちろん靴もそれらに似合う革靴。

杖もなかなかにステキだ。

 

 

 

 

この人は、きっと自分にこんな日が来るとは思ってなかったかもしれないなあ。

 

 

ついこの前、ショーケンの若き日の映画を見たばかりだった。

 

しなやかで色気のあるその動きや言葉を思い出した。

 

 

 

 

今、隣に座っているオジイサンの若い日が、知りもしないのに浮かんでしまう。

 

きっと、ものすごくカッコよかったろうなあ。

 

きっと、ものすごくモテたろうなあ。

 

ショーケンつうより原田芳雄だなあ。

 

 

 

 

次に入っていくのは、オバアサンと、その家族。

オジイサンと娘さん。

 

 

隣の診療室には、オジイサンの患者と、オバアサンと娘さんの付き添い。

 

 

後ろの席には、オバアサンの患者と娘さんとその息子さん。

 

 

 

いやあ、もう家族だらけだ。

 

 

でも。

 

私の後ろの席には、一人のオバアサン。

 

ヒザの本を開いたままうとうとしている。

 

自分の体を支える買い物カゴも兼ねたカートと移動する。

 

 

 

診療室に入るとき、それがちょっとつっかえた。

 

私が腰をあげようとしたら、先生がそれより早く駆け寄った。

 

 

 

一人、ってこういうこともタイヘンなんだなあ。

 

一人で病院に行って、診察して、会計して。

 

 

こういう一人の人を見ると、どれも私に思える。

 

 

 

きっと、私、こうなるなあと思う。

 

 

 

悲しくなんかないけど、不便だろうなあと思う。

 

(いや、ちょっと悲しいけど、そんなこと思ったら、一人のお年寄りに失礼だ。)

 

 

 

 

まあ、いいさ。

 

こうなったら、一人でわざとよぼよぼして、好みの素敵なオトコのそばあたりで、よろっとして。

 

「あれ、大丈夫ですか、おばあちゃん」なんて手を取られて。

 

 

むふむふ。してやる。

 

 

むふむふ。

きっとしてやる。