どこでもスキマな感じがする歌手の私だけど。

 

やはり、シャンソン系の方たちとご一緒すると、ほおっとした気持ちになる。

 

 

 

昨日は、「ウナ・カンツォーネ」というライブハウスの30周年記記念コンサートにお招きいただく。

 

「銀巴里」の頃からの先輩の方々との楽屋話は、もう抱腹絶倒。

 

 

 

 

 

 

貝山由紀さんという大先輩は、歌も素晴らしいけど、生き方もぶっ飛んでいて、いつも悶絶する。

 

 

くも膜下、スキルス性胃がん、脳梗塞。

 

どれか一つでも、生きる気力をなくし落ち込みそうだけど、貝山さんは違う。

 

 

 

「どうも病気で死ぬ気がしなかった」という。

 

 

死ぬのはね、「寿命」だって気がするのよ。

だから、あたしの場合はね、まだ死ぬ感じがなかった。

 

 

 

 

そして、どれもこれも完治してしまったので、そのレアさに担当医が学会で発表したほどだという。

 

 

なんともまあ、メチャクチャな話だ。

 

 

 

 

こうした貝山さんのエピソードは、もはや伝説といっていいほどあるが、今回また一つ。

 

 

 

 

御付きの男性が「子供」だという。

 

 

ええ、子供さんいらしたんですか、と驚くと。

 

 

 

「養子なのよ、弟の子供」

 

 

ところが。その息子さんも貝山さん自身もそのことを知らなかったというのだ。

 

 

 

 

息子さんがある日、役所に行くと、戸籍が違っている。

 

「おばさん」の子供になっている。

 

あわてて、ほんとのお母さんに聞くと、「あらそれ、あなたに話したわよ」という。

 

 

 

 

浪費癖と恋愛体質と病気持ちの貝山さんを心配した弟夫婦が、自分の息子を貝山さんに「あげた」というのだった。

 

 

 

なんともまあ。

 

 

 

 

あきれたり、笑ったり。

 

 

 

 

もう極上のシャンソンの物語を見ているようだ。

 

 

 

そして、この人の歌は、やはり極上なのだ。

 

 

 

 

 

人生って、もちろんしんどくて重いけど、こういう生き方だってできると思わせてくれる。

 

 

心持ち一つで、すべては変わる。

 

涙や苦しみを俯瞰できる人は、ステキだ。

 

 

 

 

 

舞台袖の椅子で。

胸が苦しいので呼吸を整え、目を閉じる貝山さんを隣で見ながら、どうかまた会えますようにと願う。

 

 

 

そして。こういう先輩を持ったことを、つくづく誇りに思った。

 

 

 

それから。いつか私も極上の歌い手になりたいと思った。