92才で歌が唄える。



これが、奇跡のようなことだってことは、誰にもわかる。


シャルル・アズナブール。



若いころは、屈折したチンピラの小男役が似合う人だった。


スクリーンのその男が、あのアズナブールだと知ったときは驚いた。





今、アズナブールは、とてつもなくカッコいい。



この年齢にしか唄えないだろう、出せないだろう、なんて思わせる歌を唄う。





声は枯れ、高音もつらい。

足元は確かにおぼつかない。



でも、今が最高かもしれない。

そんなことを私たちに思わせる。






同じ歌に同じ演出。


この「同じ」さが、彼を支えている。




一回、これがいいと決めたら、それで長い年月を唄う。



これって、ぜんぜん一期一会じゃないじゃん。


なんて若いころは思ってけど、今はものすごくよくわかる。





長い年月をきちんと唄っている人は、たいていこうだ。


(たとえば日本だと美輪さん)





出来不出来、体調の変化、心の波。


それらに対応できる、プロの方法。



そういうことだと思う。




そのうえで、その「形」に心をこめる。


まるで、今日初めてそうしたかのように。






これが超一流ということなんだなあ。






アズナブールを見ながら、聴きながら、観客はいろんなことを思う。



失くした恋や、遠い青春。帰らない日々。





まさに「帰り来ぬ青春」。






この歌がはじまると、つつつと涙が頬を流れた。







くそお。

悔しいなあ。なんで涙なんか。





でも、みんながおんなじようだった。





みんなが、それぞれの帰り来ぬ青春に涙している。








9年前に来られた人が、今来られない。






それが年月だ。





そうして。



アズナブールは、これが最後の日本だという。






最期に舞台で挨拶をするアズナブール。




その姿に、ずうっと思い続けていた言葉を送った。






こんな素晴らしい歌たちを作ってくれてありがとう!!


ほんとうに、ほんとうにありがとう!!